破棄自判の最高裁判決③消滅時効の中断事由

破棄自判の最高裁判決③消滅時効の中断事由

  最後にご紹介する最高裁判例は、最高裁判所第1小法廷・平成8年3月28日判決で、最高裁判所民事裁判例集第50巻4号1172頁に搭載されています。

 

  この最高裁判決の判示事項は1点で、それについて法律判断していますので、ご紹介して説明します。

 

 その判示事項は「第三者の申立てに係る不動産競売手続において抵当権者が債権の一部に対する配当を受けたことと右債権の残部についての時効の中断」で、裁判要旨は「第三者の申立てに係る不動産競売手続において、抵当権者が、債権の届出をし、その届出に係る債権の一部に対する配当を受けたとしても、右配当を受けたことは、右債権の残部について、差押えその他の消滅時効の中断事由に該当せず、これに準ずる消滅時効中断の効力も有しない。」というものです。

 

 何が問題となったのか説明します。

 

 債権は時効期間が満了することによって消滅します。しかし、一定の事由があった場合は消滅時効が中断します。その中断事由として、民法147条は、①請求、②差押え、仮差押え又は仮処分、③承認を挙げています。中断事由があれば、振り出しに戻って、その時から、再度、消滅時効期間が進行します。

 

 事案はかなり複雑ですが、実務では時折見かけます。依頼者は、自宅にA損保会社に住宅ローン債務のため抵当権を設定していました。また、自分が代表者をしているB株式会社のC信用金庫からの借入金について自宅に抵当権を設定(物上保証)していました。B株式会社の借入金についてD信用保証協会がC信用金庫に債務保証をしましたが、依頼者はD信用保証協会が保証履行をした際のB株式会社に対する求償権について連帯保証をしていました。B株式会社は倒産して借入金を支払わなかったので、D信用保証協会は保証債務を履行して、C信用金庫が依頼者の自宅に取得していた抵当権の移転を受けました。一方、依頼者は住宅ローンを支払えなかったので、A損保会社は抵当権の実行による依頼者の自宅の競売手続(民事執行手続)を行い、D信用保証協会はその競売手続に抵当権者として債権届出をし、配当金を受け取りました。その後、D信用保証協会は、残った求償権について連帯保証人の依頼者に支払請求をしました。

 

 債権債務関係が複雑なので、もう少し整理して説明します。D信用保証協会がA損保会社の競売手続で受けた配当金はD信用保証協会が保証履行によってC信用金庫に代位(債権者の地位の移転)した原債権であるC信用金庫のB株式会社に対する貸付金債権です。保証人は保証履行によって、①主債務者(本件ではB株式会社)に対する求償権が発生し、②保証履行によって原債権(本件では貸付金)にも代位して、2つの権利を取得しますが、2重取りはできません。①と②の関係は、①の求償権の範囲で②の原債権を行使することができるとされています(民法501条柱書)から、②が①の担保みたいなものです。本件では、D信用保証協会は、原債権の一部に配当を受けたので、求償権もその範囲で消滅し、その求償権の残額について、B株式会社の連帯保証人の依頼者に対して保証債務(主債務である求償権が一部消滅すると、その範囲で保証債務も一部消滅します)の履行を請求したということになります。ややこしいですね。

 

 D信用保証協会が依頼者に対して支払請求を行った時点では、5年間の消滅時効期間(正確に言うと主債務である求償権の消滅時効です)が過ぎていました。そこで、連帯保証人として主債務の消滅時効の援用をして連帯保証債務の消滅(主債務が時効消滅すると連帯保証債務も消滅します)を主張したのですが、訴訟で問題となったのは、D信用保証協会がA損保会社の競売手続に債権届出をして配当手続で配当金を受け取ったことが、民法147条の差押えなどの中断事由に該当するかどうかでした。

 

 他人の行った民事執行手続での債権届出は消滅時効の中断事由にならないという最高裁の判例(最高裁平成元年10月13日判決)はあったのですが、さらに進んで配当手続で配当を受けた場合は、配当金の受領が消滅時効中断事由になるのかどうかについて争いがあったのです。

 

 第1審は配当金の受領は消滅時効中断事由にならないと判断し、控訴審は消滅時効中断事由になると判断しましたが、最高裁は消滅時効中断事由にならないと判断しました。債権者が他人の競売手続に参加して配当金を受領しただけでは、権利行使の意思が明確になったとは言えないから、消滅時効の中断事由にならないというわけです。債権者は、手間がかかっても、自分で、民法で定められた消滅時効の中断をしっかりしなさいということですね。

 

 依頼者は、控訴審で敗訴しても支払うお金を持っていませんでした。しないよりはマシだということで、上告してみたのです。

 

 法律家としては、上告して勝訴判決を受けて良かったとは思いましたが、最高裁の判決時には依頼者への連絡が取れなくなっていて、ともに喜ぶべき依頼者が所在不明でした。