破棄自判の最高裁判決①動産売買の先取特権による物上代位

破棄自判の最高裁判決①動産売買の先取特権による物上代位

 最初にご紹介する最高裁判例は,最高裁判所第2小法廷・昭和60年7月19日判決で,最高裁判所民事裁判例集第39巻5号1326頁に搭載されています。

 この判決の判示事項(最高裁が法律判断をした事項)は4点で,それについて法律判断していますが,民事執行法上の問題もあって難しいので,最初の1点だけご紹介して説明します。

 その判示事項は「先取特権者による物上代位権行使の目的となる債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたのちの先取特権者による物上代位権の行使」で,裁判要旨は「先取特権者による物上代位権行使の目的となる債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、そののちに先取特権者が右債権に対し物上代位権を行使することを妨げない。」というものです。

 何が問題となったのか説明します。先取特権という民法で定められた担保権があります。担保権は他の一般債権者より優先して弁済を受けることができる権利です。抵当権や質権は耳慣れた担保権ですが,先取特権は抵当権や質権とは違って,当事者で設定契約をしないでも,民法が勝手に認めてくれる担保権です。この事件で問題となったのは,先取特権のうちの動産売買の先取特権による物上代位でした。動産売買の先取特権は,商品や機械などの動産を売った場合に売買代金とその利息を被担保債権とし売却した動産を担保目的物として成立し,その動産が他に転売されても転売代金に先取特権の効力が及ぶ(物上代位といいます)と民法に規定されています。

 私の依頼者の商社は,溶接用材料をA社に売ったのですがA社が売買代金を支払わず,その材料はA社からB社に転売していたので,私は依頼者の商社の代理人として動産売買の先取特権による物上代位として転売代金債権(A社のB社に対する売買代金債権)の差押・転付命令を得たのです。ところが,その転売代金は他のA社の債権者C社とD社から既に仮差押えされていました。さあ,私の依頼者の商社にC社・D社よりも優先してその転売代金をB社から回収できるかというのが法律上の問題点で,民法304条の解釈問題です。

 この判決は,転売代金がB社からA社に支払われるまでなら,他の一般債権者から差押えや仮押えがされていても,先取特権者は差押えさえすれば,債権の特定性が保持されるから(特定性維持説),他の一般債権者に優先して回収することができると判断したものです。当時は,先取特権者の差押えは優先権保全のためにされる(優先権保全説)ものであるから,1番最初に差押えないと優先権がないというのが大審院判例であるという理解が多かった(執行裁判所も第1審も控訴審も同じでした)のですが,この判決は通説の特定性維持説に立つことを明らかにしたのです。上告して良かったと思いました。この判例は,民法判例百選にも搭載されていますし,判例評釈も多くあります。

 この事件は,配当表に対する異議事件として最高裁判所まで行ったのですが,私の勉強不足を白状しなければなりません。私は,B社に依頼して(仮)差押えの競合を理由として民事執行法上の義務供託をしてもらって,配当手続で執行裁判所の作成した配当表に異議を述べて配当異議訴訟を提起して,最高裁判所まで行ったのです。しかし,私には,担保権者(先取特権者)は,他の一般債権者の(仮)差押えがあっても優先権の範囲で差押・転付命令を受けた転売代金を直接B社から支払ってもらえるという手続上の法律知識が欠けていたのです。最高裁判所は,直接取立てが可能だと判示したうえで,転付命令が効力を生じているため法律上差押の競合があるとはいえない場合であっても,第三債務者(B社のことです)に転付命令の効力の有無についての的確な判断を期待しえない事情があるときは,義務供託の規定の類推適用により義務供託は有効であるが,本件は的確な判断を期待し得ない事情があるとして義務供託は有効であると判断し,救済してくれました。

 最近は動産売買の先取特権は知られるようになっていますが,この権利を知らない債権者も多いようです。この担保権を行使(判決は不要です)すれば,劇的に売掛金を回収できることになります。債務者の破産開始後も,動産売買先取特権による物上代位が可能だというのが最高裁判例(最高裁昭和59年2月2日判決)ですから,この劇的な債権回収は、買主の破産開始後も可能です。

 ちなみに,依頼者の商社にはA社に対するかなりの貸倒れが生じましたが,B社と直接取引をするようにして商権を確保しました。私は,この商社の顧問弁護士から社外監査役に、社外監査役から社外取締役になって現在に至っています。