訴訟に勝ったら弁護士費用を相手方に負担させられるか

訴訟に勝ったら弁護士費用を相手方に負担させられるか

  今日,嬉しい判決をもらいました。

 

 私は1年ちょっと前にある民事事件の被告代理人として1回目の訴訟に勝ちました。その後,今度は原告代理人として,同じ相手方に対し訴訟を提起しました。この2回目の訴訟では,1回目の訴訟に関する弁護士費用(私の報酬)について損害賠償を請求しました。今日の判決は,こちらの請求を全面的に認めた(一審判決を支持する控訴審の)勝訴判決です。

 判決は,相手方に対し,2回目の訴訟の原告側弁護士費用(私の報酬)についても支払を命じています。しかし,勝訴した被告側の弁護士費用(1回目の訴訟の私の弁護士費用)を原告に負担させる判決をもらったのは初めてです。

 珍しい判決なのですが,なぜ珍しいのでしょうか。

 

 イギリスに留学した香川(当事務所の先輩弁護士)によると,イギリスでは勝訴した側の弁護士費用は敗訴した当事者が負担するそうです。

 日本でも,訴えたいけれど,弁護士費用が払えなくて訴訟を断念する方はいらっしゃるかもしれません。このような方は,弁護士費用を敗訴者が負担する制度があれば,泣き寝入りせず,訴訟によって権利を実現することができるかもしれません。

 ただ,もめ事を嫌う日本では,訴訟にまでもつれ込むケースというのは,相手方にも一応の言い分がある場合がほとんどです。どちらの言い分が正しいのかは,必ずしも訴訟前に確定的に判断できない例が多いのです。しかも,言い分が正しくても,証拠がなければ,主張する事実を認定してもらうことはできません。

 したがって,日本では,恐らく勝つと思うけれどひょっとしたら負けるかもしれないとか,100%認められなくとも70%程度は認めてもらえるだろう,と考えて訴訟に踏み切る例が多いのが実際のところです。

 そうすると,もし負けたら自分の弁護士費用だけでなく相手方の弁護士費用まで支払わなければならない,というリスクを背負っては訴訟に踏み切ることが難しいのが人情です。

 これでは,特に国や大企業を相手にして弱者を救済するような,負ける可能性が高いけれども戦わなければならないタイプの訴訟ができなくなります。

 弁護士費用を支払うことができない方については,別途経済的支援をすれば足ります。

 

 したがって,日本では,弁護士費用は訴訟の勝敗にかかわらず,各自が負担するのを原則としています(なお,「訴訟費用」については敗訴者に負担を命じられますが,この「訴訟費用」には弁護士の着手金・報酬金は含まれません)。

 

 これには例外が2つあります。

 

 1つ目は,不法行為に基づく損害賠償事件です。

 相手方の違法な行為によって被害を受け,弁護士に依頼せざるを得なくなるケースは,少なくありません。

 不法行為に基づく請求については,たいていの場合,原告側の弁護士費用を被告に賠償させることができます。

 なお,最近(H24.2.24),最高裁は,不法行為責任ではなく,使用者の安全配慮義務違反による損害賠償請求についても,原告側の弁護士費用の賠償を命じました。

 今回の私の2回目の訴訟でも,被告に対し,原告の弁護士費用(私の報酬)の一部の賠償が命じられています。

 

 2つ目の例外は,原告が全く根拠のない訴訟を提起した場合です。

 原告が訴訟において主張した権利法律関係が,事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,原告がそのことを知りながらまたは通常人であれば容易にそのことを知り得たのに敢えて訴訟提起したなど裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合は,訴訟提起自体が不法行為となります(最高裁判所昭和63年1月26日判決)。

 したがって,この場合に,被告が訴訟で防御するために弁護士に依頼せざるを得なければ,その弁護士費用を損害として提訴者に賠償してもらうことができます。

 しかし,憲法上裁判を受ける権利が保障されていることも関係して, 訴訟を起こすこと自体が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く 場合に該当すると認めてもらえるケースは,ほとんどありません。

 今回の私の訴訟では,クライアントとともに戦った結果,一審に引き続き控訴審でも,1回目の訴訟提起自体がが違法と判断してもらい,1回目の訴訟の弁護士費用(私の報酬)の賠償を相手方に命じてもらうことができたのです。

 

 ご相談に来られて既に3年以上が立ちましたが,長く戦った分だけ,完勝の喜びはひとしおです。

 

                                                      (2012.7.27弁護士宮藤幸一