新築マンションの青田売り

新築マンションの青田売り

  ここ数年不動産市場は低迷を続け,ディベロッパーの倒産も相次いだ。

  しかし,今年度に入りようやく回復基調に入り,首都圏・近畿圏の新築マンションの月間契約率は,いずれも好・不調の目安となる70%を上回るようになってきた。

  住宅ローン減税や住宅版エコポイントなど,政府の数々の景気刺激策も一定の効果を上げてきたというところか。

 

  ところで,新築マンションの分譲は,法的にいえば「売買」なのであるが,一般の売買と大きく異なる点がある。

  それは,多くの場合において,売買契約の時点で目的物であるマンションがまだ完成していないということだ。

  新築マンションの分譲は,竣工の1~2年前から行われることが多い。

  通常の,例えば野菜を買う,又は,洋服を買う,という売買の場合は,店に行けば現物が並んでいる。そこで消費者は,それらを実際に目で見て,手にとって,洋服なら試着もして,吟味をし,痛んだりほつれたりしているところはないか確認して買うことができる。

  ところが新築マンションの場合は,現物を目で見て確認することができない。

  パンフレットやチラシの完成予想図,場合によっては設計図書を見て,想像するしかないのである。

  何千万円もする物件の買い物としては,かなり大胆な行為である。

  せいぜい数千円から数万円の洋服を買う際でも,色やデザインや着たときの雰囲気など現物を確認して選ぶのに,こと新築マンションに関しては,何千万円もの買い物であるにもかかわらず,みな現物を見ることなく売買契約締結に至る。

  これは,一般にまかり通っている慣行なのであるが,よくよく考えてみるとこのようなマンションの青田売りというのは消費者にかなり危険な賭けを強いていることにならないか。

 

  この欠点を補うために,新築マンションの分譲に当たっては,通常モデルルームが開設される。

  しかし,このモデルルームも注意が必要である。

  大抵,複数ある部屋タイプのうち,比較的広めの間取りのタイプがモデルルームとして作られる。その上,より広く見えるよう間取りを変更し,豪華に見えるオプションなども施され,仕上げにお洒落な家具で彩られているのである。

  モデルルームに一歩足を踏み入れると,消費者はその絢爛豪華さにすっかりとりこになり,自分が選ぼうとしている部屋のタイプがもっと狭い別の間取りであっても,モデルルームのイメージに引きずられてしまう。そして,そのまま売買契約を締結するのである。そして,マンションが完成し,内覧会で実物を見てみると,自分の買った部屋は思ったより狭く,内装も貧弱に感じられる…。しかし,そのような理由での契約解除は何百万円もの手付金を放棄しなければできないことが通常である。

  モデルルームを見るときには,見かけの華やかさに惑わされない冷静な目が必要である。

 

  次に,新築マンションを買うときには,パンフレットや設計図書といったいわば二次元の資料から,三次元の完成した建物をイメージする想像力が重要である。

  例えば,パンフレットの間取り図を見て,「ここに窓がある。」ということは比較的簡単に分かるであろうが,それが掃出窓なのか,腰高窓なのか,はたまた出窓なのか,その違いによって部屋のイメージや使い勝手は随分変わる。こうした情報は,設計図書中の部屋ごとの立面図に記載されているので,それを見るとイメージしやすい。

  このほか部屋の広さを実感するには,手持ちの家具の長さを実際に測り,部屋に配置できるか縮尺を合わせて間取り図に記入してみることが有用である。

  完成後入居し,いざ引越しとなったときに手持ちの家具が思った場所に並べられないなどということになっては,使い勝手も減殺されよう。

 

  更に,マンションの敷地の地盤への目配りもした方がよい。

  周辺が住宅地であっても,川や池のそばであるとか,昔は田や海であったという地域は結構あるものである。

  次のようなケースがあった。

  新築マンションの売買契約を締結し, 数百万円の手付金も支払った。その後,マンションが完成し,内覧会も済ませ,あとは入居を待つばかりとなったある日,無人のマンションの一室で,床から水がしみ出てきた。この部屋は半地下に位置し,地盤に接した外壁からコンクリートを通って部屋にまで浸水したらしいとのことであった。調べてみるとこのマンションは,住宅街の中の川にほど近い場所に位置し,この地域では何十年も前に1度大規模な洪水被害が起きたことがあった。また,このマンションは,周辺からみて一段低い位置にあり,もともと周囲の水が流れ込みやすい地形になっており,ボーリング調査の結果をみても含水性の高い土壌であった。これに対してディベロッパーは,マンションの外壁と地盤との間に空間を設け,防水処置を施すなどの対処工事をすることとしたが,もはや入居するのは不安である。話合いの末,手付金の返還を含めた契約の白紙撤回で合意した。

 

  モデルルームは魅力的で,販売員のセールストークも上手く,勢いで購入に至るケースもあるかもしれない。

  しかし,言うまでもなく,マンションは何千万円もする高額物件であり,多くの人にとって一生に1度あるかないかの大きな買い物である。

  買う側も,十分な下調べと冷静な目を持って,後悔のない決断をしたいものである。

 

                                                (H22.10.23 弁護士江村純子